- 連載 -
第6回 ストレスためんと、お金ためましょ!
小山美穂
 皆さん、2008年五輪招致では大阪を応援してもろて、ほんまにありがとうございました。結果はご承知の通り、アホくさいほどの惨敗やったけど、出来の悪い子ほどかわいいのが親心。心配ご無用、大阪はこの小山がついてる限り不滅です〜!!

 さて関西では、京都の祇園祭で古都の風情を満喫し(暑ぅ〜)、大阪の天神祭で船渡御と花火を肴にワイワイガヤガヤ(風が爽やかやったよ〜)、それから、熱湯…やないわ、熱闘・甲子園と、暑〜い夏を彩る行事が目白押し。そやけど、何年ぶりかのこの猛暑、「祭どころとちゃうでぇ」て、へたってはる人も多いんと違いますかぁ? 私は、ガラス細工よりも繊細な心を持つ乙女やけど(?)、暑さ寒さにはめっぽう強いねん。それは子供の頃、祖父から「暑いと思うんは心がけが悪いからや。心頭を滅却すれば火もまた涼し…」て、快川和尚が織田信長に焼き殺されたときに言うたと伝わる、あの有名なフレーズで毎日”洗脳”されてたからです。子供は正直やから、そう考えたら不思議と涼し〜いような気ぃになったもんやけど、そない言うてる祖父は、いつも汗びっしょりやったねぇ。

 冬は、「満州を思え」が常套句。なんでも、祖父が一時住んでた満州では、冬にうっかり素手でドアノブでも握ったら、そのまま手が凍りつくほどの厳しい寒さやったそうです。どっちも、納得できるような、でけへんような理屈やけど、今から思えば昔流の「我慢と忍耐」の教育やってんね。そういう厳しい”修行”を長年積んできたお蔭で、今では年中冷暖房いらず、自他ともに認める、経済的で地球環境にも優しい小山になれました。心の持ちようひとつで世界が変わる。皆さんも騙されたと思て、いっぺん試してみて下さいね。

 そうは言うてもこの暑さ。その上、毎日せからしい生活送ってたら、ストレスもたまりがち。小泉首相はメルマガに「新しいストレスが来ると、古いストレスを忘れてしまう」て書いてはったけど、そら無茶やわ。ストレスは上手に発散せな、長い人生、身がもてへん。皆さんはどうやってストレスを解消してはりますかぁ?

 美味しいもん食べる? けど、この飽食の時代、何が美味しいか一生懸命考えるだけでもストレスたまるでしょ。ほんなら、スポーツで汗を流したらどうや、て? そやねぇ…思いっきり汗かいて、そのあと冷たいビールをグググィ〜〜。あかんわ、せっかくのダイエット効果が台無しやん。…えぇ、何ですて〜?部屋にこもって出会い系サイトで恋人探しぃ? あんた、それアブナイわぁ〜!!

 そこで、小山流ストレス解消法を本邦初公開…てゆうても、そないたいそうなことやありません。昔ながらの大阪流の買いものが、私にとって気分が滅入ったときの一番の特効薬です。私が育ったのは、れっきとした大阪商人の家庭。「我慢と忍耐」に加え、「質素・倹約」を旨とし、合理的・計画的にお金を使うことを子供の頃から仕込まれてきました。

 まず、「ものは定価で買うな」ていうのが小山家の家訓(?)。そやけど安もんを買うんとちゃうよ。安う買える時期とかお店をチェックして、頭を使うて買わなあきません。欲しいものもすぐには買わんとバーゲンまで待つのは当り前、その上、私は内気な割には値切って買うんの達人です。実は今日も、百貨店のセールで店員さんと話してるうちに熱意が通じて、セール価格からまだ「勉強」してもらいました。郵便局の窓口で0・1g重量オーバーの郵便を、「それ、切手の重さとちゃう?」て言うたら、「それ、おもろい理屈やなぁ…」てまけてくれはったこともあります。こないだ「ドイツではこれまで、お店のつける価格から値切ることが法的に認められていなかった」ていう話を聞いたけど、そんな法律あったら、私、ストレスたまって病気になるわ。

 大阪人のけったいな習性は、物を安う買うたら自慢すること。「この服、商店街で4500円やってんよ」「えぇ? 私のん5000円。負けたわ〜」。こんな会話、老若男女いつでもどこでも交わしてます。買いものの最中、知らん人とでも会話が弾むのもごく普通。「これ、どやろか? 2000円やねんけど…」「2000円やったらよろしやん。ほかしても(捨てても)知れてるし」。…で結局、ほかさんとずっと大事に使うんが大阪人。こんなんやから「大阪人が2人寄ったら漫才になる」て言われるんでしょうけど、同じことするにも、言葉のキャッチボールで楽しさを分かち合うたら、爽やかで明るい気分になりますよ。

 けど、誤解せんといて欲しいのは、大阪人は決して「しぶちん」(けち)とちゃう、いうことです。「お金は汚のう儲けても綺麗に使え」ていう言葉が、昔から商売の町・船場に伝わってるぐらい、大阪の人は必要なものにはお金は惜しみなく使います。ただし、ほんまに値打があるか、充分に納得できたら、の話。

 家電製品の街として有名な、東京の秋葉原と大阪の日本橋(にっぽんばし)。この2つの違いは、秋葉原では最初から底値、日本橋では値切られる分を上乗せした値札がついてることやそうです。私が子供の頃の日本橋は、何軒もお店を回って値段と品物を見比べてから、店員さんと値段交渉するのが当り前でした。「もうちょっと何とかなれへんかなぁ?」「殺生やなぁ…。そしたら、これぐらいで…」。大人たちが軽妙なやりとりをしながら値段が決まっていくのを見るのが、妙に人間臭ぁて、子供心に楽しみでした。

 これを品がないと思う人もいてはるかも知れませんが、ほんまは、やんわりした大阪弁の特徴を生かして、相手の気持や立場もちゃ〜んと配慮した、意外とハイレベルな駆け引きなんです。そういうことを繰り返して、大阪独特の商売とコミュニティが形成されてきたんやと思います。そやけどいつの間にか、そういう商売は影をひそめ、今では日本橋でも最初から底値を表示するお店が増えたそうです。大阪人気質の素晴らしい一部分が失われていくようで、ほんまに寂しい限りやわぁ。

 今日、伝授させてもろた買いもの法を実践してみはったら、お金も無駄遣いせんですむし、人との温かいふれあいもあるし、きっと、自分の持ち物ひとつひとつに、買うたときの思い出がこもってるのが感じられて、大切にできます。それに、欲しいものを納得いく値段でゲットできたときは、快感で暑さもストレスもいっぺんに吹っ飛びますよ〜。

 「そんな恥ずかしいこと、ようせんわ」て? なんやったら、この小山がついて行って実地訓練したげまっせ〜!
(August 2001)

戻る