- 連載 -
第23回 2003春夏大阪コレクションリポート
〜“お洒落“こそ若さと元気の秘訣〜 
小山美穂
 皆さまには、健やかに新年をお迎えのこととお慶び申しあげます。

 本日は、浪花のファッションリポーター・小山美穂が、久方ぶりに皆さまを関西最大のファッションイベント「大阪コレクション」にご案内申しあげます。…え? ファッションのことなんか解るんか、て? 任せてちょうだい! 私はその筋(?)ではちょっと知られたファッション通。ただし、関西地区限定やねんけどね…。

 「大阪コレクション」は、若いクリエーターの発掘・育成、繊維産業の振興などを目的に、大阪の行政と経済界が協力して1987年から継続して開催するファッション事業で、国内外のデザイナーが、毎年4月に「秋冬もの」、11月に「春夏もの」の最新モードをショー形式で発表しはります。今では大阪の年中行事として市民の間にも定着してるばかりか、東京や名古屋、岡山、福岡から見に来はるお客さんも増えてるねんてぇ。お洒落に敏感な方やったら、新聞・雑誌やテレビのニュースでご覧になったことがあるかも知れませんが、そやない方も、このコレクションの提唱者である大阪・岸和田出身の世界的デザイナー、コシノヒロコさんのお名前とお顔ぐらいはご存知でしょ?

 …まぁ、前置はこのぐらいにして、早速、昨年11月に行われた「2003春夏大阪コレクション」の模様をお伝えさせて頂きます。(「大阪コレクション」の成立ちについては、バックナンバー第3回をご覧頂ければ幸いです)

 ショーが行われたのは、大阪市庁舎や大きなオフィスビルが軒を連ねる大阪・中之島に建つ「大阪市中央公会堂」。赤煉瓦と緑青の屋根が美しいネオ・ルネッサンス様式の重厚な大正建築で、3年半に亘る改修工事を終え、この度めでたく国の重要文化財に指定されました。この建物は、大阪の株の仲買人・岩本栄之助さんが100万円の私財(今の50億円相当)を寄付して大正7年に造られたんですけど、岩本さん本人は事業に失敗して、その完成を見んうちにピストル自殺しはったていう悲しい逸話も残ってるそうです。

 以前、フランスの領事さんから「2つの川(堂島川・土佐堀川)に挟まれた中之島の景色はパリのシテ島そっくりで、トレビア〜ン」とお褒めに預かったことがありますが、その美しい中之島の水と緑に映える公会堂、外観からして風情があるわぁ。けど、このレトロな建物の中でのファッションショーて、一体どんな雰囲気になるねんやろ…。

 初日は、大阪を拠点に活躍するベテランデザイナー、いづみみちこさんの2回の公演です。会場となる3階の中集会室は、鹿鳴館をイメージした舞踏会なども開かれるだけあって、随所に施したステンドグラスと古典的なシャンデリアが素敵やわぁ。開演まで2時間もあるのに、もう200人近い観客が螺旋状の階段に行列し始めました。服飾専門学校の学生さんもようけ来てはるようで、思い思いのユニークなお洒落が結構センスええわ…。

 ん? 何々? 観客整理のお兄さんが「壁や手すり、柱にもたれて汚したり、キズをつけないようご注意下さ〜い!」て注意して回ってはります。以前のボロッちい(失礼!)建物やったらヘッチャラやったのに、綺麗に改修して重要文化財になったばっかりに、神経を尖らさなあかんねんね。聞くところでは、ショーのための照明や舞台装置など大きな機材を運び込むときも、「人間は怪我しても治るけど、建物は絶対キズつけたらあかん」て、裏方さんのご苦労は並大抵やなかってんてぇ。

 せっかくの機会やから、開演までの間に、かつて来賓専用に使われたというお隣の特別室もちょっと拝見。鳳凰と大阪の市章の澪標(みおつくし)をモチーフにした大きなステンドグラス、大理石の柱、天井と壁一面に描かれた壁画が素晴らしいわぁ! 神話「天地開闢」や、難波に都を定めた「仁徳天皇」、商の神様「素盞鳴尊(すさのおのみこと)」などを、明治洋画の松岡壽画伯が描かはったもんやそうで、礼拝堂にいてるような錯覚を覚えます。
 
 そうこうするうち、ショーの開演です。
 いづみさんのコレクションテーマは「美しい香り、快さ」。微妙な色合いの天然素材を贅沢に使ぅて、文字通り美しい香りが漂うような大人のモードが次々と披露されます。それにしても、季節を先取りした衣装をまとい、颯爽とステージを歩くモデルさんは、いつ見てもうっとりするわぁ。ある時はカラフルに、次はモノトーンにと展開するシーンに心を奪われるうち、あっという間にフィナーレです。

 大きな拍手に迎えられて、大勢のモデルさんと一緒にステージに登場するいづみさん。熱烈なファンが駆け寄って渡す何十もの豪華な花束…何べん見てもジーンと来る光景です。この瞬間きっと、デザイナーさんも次の制作活動に向けての大きなエネルギーをもらわはるんやないかなぁと、勝手な想像を巡らしました。

 2日目は、ヨーロッパで活躍する新進デザイナーのジョイントステージと、全国公募で厳しい選考にパスした新人デザイナーによるジョイントステージが行われました。

 パリのブノワ・ミソランさんは、名門のサンディカとステュディオ・ベルソーで学び、ミュグレーやクリスチャン・ラクロワの下でデザイナーを務めた経験もある実力派。ピンクと白などヴィヴィッドな色使いや、大胆なスター柄が個性的で、目を楽しませてくれます。ちょっと危ない露出ファッションもあるけど、これはまあ、ご愛嬌やろね…。

 デンマークで生まれ、現在ロンドンで活躍するカミラ・スタークさんは、これとは対照的に、繊細なレースや透ける素材を多用したフェミニンな作品です。黒やブラウン、エンジなどのシックな色調がメインやのに、若々しく遊び心が感じられるから不思議やね。

 このショーは、事前情報を敏感にキャッチした若いファンが殺到したため、臨時に公演を2回に増やしたほどの人気やったそうです。ショーの後、観客に囲まれた2人のデザイナーさん、もみくちゃになりながら、デジカメでパチパチ記念撮影してはります。若者はいずこも同じやねぇ。ちょっとここでインタビュー。「大阪での初めてのショーのご感想は?」「外国の若いデザイナーにも発表の機会を与える大阪コレクションの噂は以前から聞いていたので、招かれて光栄です。大阪の人は本当に親切で、ショーの運営も自国では考えられないほど手際がいい。お客さんの反応も良くて、気持よくショーができました」…わぁ〜、嬉しいこと言うてくれはるね! これからも楽しいお仕事してちょうだいね〜。
「新人ジョイント」ステージ
 続く「新人ジョイント」ステージでは、4人の将来有望な若手が美を競いました(掲載写真)。
 大コレ史上最年少の紗南矢悠祈(さなや・ゆうき)さんは、ロリータファッションを追求する奈良出身の21歳。「白と黒の天使、そしてその共存」をテーマに、なんと清楚で可愛らしい服やこと! 京都の鈴木優士さんは、「特殊擬装部隊」て難しいテーマやけど、「人の目を欺くカモフラージュを、柄ではなく形で表現する」言うて、重ね着や異素材の組み合わせなど工夫を凝らし、独自の世界を表現しました。

 大阪の永田洋一郎さんは、「黒い服の控え目な華やかさ」を、レースを効かせたドレスや、胸元や裾を大胆にカットしたスーツのヴァリエーションで上品に。そして、同じく大阪で活躍する中堂嘉子さんは、暗い世相を吹き飛ばすかのように、「青空の下で歓喜のあまり思わず跳ねてしまうような気持」を、淡いピンクを基調に、優しい花を連想させるシンプルなドレスで表現。元気一杯のコレクションを堪能させてもろたお蔭で、身も心もリフレッシュしたようなええ気分やわ〜♪

 最終日は、大御所コシノヒロコさんの登場です。「OFF・ON − 仄かと閃き −」をテーマに、立体的に、構築的に、色彩豊かに、芸術的に、ハッとさせるような新鮮さとパワー漲るコレクション。コシノさんの貫禄に圧倒されてしもて、もう、美しいとしか言葉が見つかりません。2回の公演とも、会場の入口近くまで何重にも立ち見が出るほど大勢の観客から、思わず熱〜いため息が漏れました。

 3日間に亘るコレクションには、延べ5000人の観客が訪れて、大阪発の美の世界を心行くまで楽しみました。
 大阪は言うに及ばず、日本中まだまだ深刻な不況続きで、お洒落心も曇りがちですね。そやけど、ベテランデザイナーと若いデザイナーが、競い合うように個性を発揮するのを目の当たりにしたら、大阪もまだまだ捨てたもんやないなぁと思えて来て、なんとなしに活力を分けてもろたような気がしました。

 暗い世相に落ち込んでばっかりいててもしゃあない。皆さんもたまには思いっきりお洒落して、華麗なファッションショーでも足を運んでみはったら、きっと心の奥底から明るい夢と希望がわいてくること請け合いですよ〜。
(January 2003)

写真協力: 大阪コレクション開催委員会
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