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第25回 
小山美穂
 卒業のシーズンですね。幼稚園・小学校・中学校・高校・大学…それぞれのこと、いつ思い起こしても胸がキュンとなりますねぇ…。
おほほ・・・お気になさらずに
 先日、大阪の某ファッション専門学校の卒業制作発表会に、審査員の1人としてお招きに預かりました。最初このお話を頂いた時は、「かなんわぁ〜。私、生徒さんが一生懸命作りはったもんに点数なんか、よう付けしませんわ。しかも、お洒落は好きやけど、ファッションには素人やし…。第一、審査に着ていくような服も持ってへんわ」て、なんとかお断りしようとしました。

 そしたら、満面の笑みをたたえて「おほほ、いえいえ…審査員の服装はご自由でございますことよ。お気になさらずに。(そら、そやね…)もちろん専門家の先生方にもお願いいたしておりますが、それだけでは不十分なのです。ファッションは色々な方の心に訴えないといけません。ですから当校としては、他の先生方とは全く別の視点、そう・・新しい角度から審査して下さる、小山先生のような独創的で個性的な感性をお持ちの方にも、是非お願いしたいのでございますわ」やてぇ! なんや、そんな理由かいな…。ちょっと拍子抜けしたような気ぃもせんではないけど、そこまで言われたら嫌と言うわけにもいかず、「ほな、勉強のつもりで伺いますわ…」て、結局、審査員をお受けすることになりました(乗せられやすいんやろか)。
データは貴重 Bon voyage♪
 さて当日・・・集まった審査員は・・・うへっ! 有名デザイナーやファッションジャーナリストなど、そうそうたる顔ぶれやんかぁ〜。私、この人らと一緒に審査するのん?! そら、えらいこっちゃ〜!

 ・・・この学校は、東京と大阪、ソウルにも分校を持ち、パリの本校と同じカリキュラムで本格的な教育をしてるそうです。時々、「勉強が嫌いやから専門学校でも行っとこか」ていう子供たちがいてますが、ここはフランス人講師の授業も取り入れ、真面目に勉強せんことには卒業でけへん厳しい教育方針で、それだけに、デザイナーやパタンナーとして実社会で活躍する卒業生も多いと聞いています。こらぁ、私も真剣に採点せんことには、帰らしてもらわれへんかも知れへんねぇ・・・。

 審査の方法は、生徒が1人あるいは数人のグループで制作した作品とデザイン画を、40ほどのブースに展示し、審査員はそのブースを回って、生徒たちから制作の意図や作品の特徴などを聞いて、「デザイン・企画」と「技術(素材・パタン・縫製など)」について、それぞれ10点・合計20点満点で採点していくというもの。

 私は、顔見知りのベテランデザイナーさんと一緒に回らしてもらうことにしました。そしたら、フランス人の係員が、分厚い採点表を私に手渡してニッコリしながら「Bon voyage♪」と一言。

 けったいなこと言いはるなぁと思いながら、私も「ほな、行って来ま〜す♪」と、気楽に出発しました。けど、3つほど採点したら、すぐにその意味がわかりました。これまで学んできたことの集大成である卒業作品について、私みたいな頼りない審査員を相手に、緊張のあまり言葉を詰まらせたり、額に汗をにじませたりしながら、真剣に説明をする生徒たちの熱意に応えよぅと思うたら、こっちも全精力を注いで審査せざるを得えへんもん。
小山もビックリ 立て板に水・・!?
 『和』をテーマに、書道と水墨画を巧みに取り入れたドレス…(一見シンプルやけど、ディテールに凝ってるわぁ)。イギリスの詩をモチーフにしたメンズカジュアル…(抽象的なテーマやけど、仕上げはなかなかええねぇ)。「けど、あんたら男の子やのに、なんでそんな元気ないのん?」「はい、『黄昏』という詩がテーマですから、僕らもたそがれてるんです」(うまいっ!)。
                                                      

 次はダイエット?「私は、痩せるために通販で器具を買いましたが、使い方が面倒で挫折したので、もっと簡単に痩せる方法はないかと考えました。サスペンダーからパンツの内側を通したゴムベルトを、腕とつま先に掛けて引っ張れば、ほうら、こんなに筋肉の運動になります。他にもいくつもベルトがあって、痩せたい部分を重点的に鍛えることができます」。("立て板に水"の口上やねぇ)。
 「あんた、デザイナーになるのもええけど、通販のTV番組の司会やったら受けるんとちゃう?」(けど、デザインも可愛らしいから、点数は…)

 「安価で軽く、保温性がいいことを重視して『スポンジ』でスーツを作りました」(へぇ〜、このままNASAへでも行けそうな、めっちゃ格好ええデザインやん。立体的で柔らかな曲線がええねぇ)。
 今話題の『クローン』は、同じ形の襟と袖がいくつも付いて、色彩も細胞をイメージした透明な緑や赤。う〜ん、難しいパタンを綺麗に仕上げてるし、根気の要る手作業は素晴らしいと思うけど、ちょっとグロテスクやなぁ〜。

 他にもテーマは、「よう、こんな発想ができるなぁ」とびっくりするほど様々でした。『犬の服』『チベット』『水の様相』『凸凹』『靴が服になったら』…。そして、中には、このままプロとして独り立ちしても充分やっていけるんやないか、と思えるほど完成された服を作る生徒も何人か見受けられました。
男らしさと女らしさ 新鮮・・10代の感性に生きていた
 プレゼンテーションを通じて面白いと思うたんは、「男らしさ」「女らしさ」ていう表現が随所で使われてたことでした。思わず「あんたらの世代にとって、女らしいて、どんなこと?」て質問したら、異口同音に「優しさ、柔らかな曲線」、同じように「男らしさ」は「逞しさ、強さ」などの答えが返ってきました。

 今、小学校では子供らに男女の区別をつけへん教育をしてはるそうですね。けど、「らしさ」を否定したら、人間味まで失われて、生活に潤いがなくなるんやないかと以前から懸念してました。ところが、金髪やら茶髪やら、けったいな服装で、一見何を考えてるんか解れへんような10代の生徒たちから、そんな意外な言葉を聞かされて、少なくともクリエーションの世界では「らしさ」という考え方が生きてるねんなぁと、嬉しぃなりました。「今の若いモンは…」ていうのは、エジプトの時代からあった言葉やそうですが、「人間らしさ」というものはそう簡単に変わるもんやないのかも知れませんね。

 こうして、1人1人にじっくり話を聞いて採点してるうちに、初めに見た作品と後の作品の採点基準が

 ゴッチャになってきて、何べんもあちこちのブースを行きつ戻りつして点数の調整。寸評欄には、採点の根拠、良い点、考え直して欲しい点など、書き出したらきりがありません。

 初めは低い点をつけてても、あまりにも真摯な生徒の姿勢に情が移り、思わず0.5点ほど足してしもたりして、人の作ったもんに客観的に点数をつけるのは、予想をはるかに上回る難儀な仕事やと実感しました。

 全ての採点が終ったんは3時間後。脚は棒のようやし、目はショボショボ、思考能力ゼロ。採点表を抱えてた腕は、筋肉疲労で上げることもでけへんほど、全身ヘトヘトとになってしまいました。まぁ、心地よい疲労ではありましたけどね。
結果は・・・
 「素人の目で結構」て言われてたから、きっと他の審査員と採点に開きがあるやろなと思うてましたが、参考のために一緒に回ったデザイナーさんと採点表を比較させてもろたら、驚いたことに、8割方にほぼ同じ点数をつけててんよ。

 「小山さん、やっぱり努力と工夫を重ねて作った服は少々未熟でも将来性を感じるし、その子の心が表れるもんです。ファッションでも芸術でも文章でも、人が作るもんは何でもそうとちゃいますか?」先生の重みのある言葉でした。

 「小山さん、今日は非常に熱心に審査をして頂いて、ありがとうございました。全ての作品に寸評をこれだけ細かく書いて下さったのは小山さんだけです。生徒たちにとって貴重な参考になりますし、みんな感激することでしょう。ぜひ来年もよろしくお願いします」。
 ありゃ〜?? 知らん間にこっちの方が審査されてしもたわぁ!
(March 2003)

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